• ミロコマチコ「ミロコあたり」

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 季節は巡って、またアリの大量発生と戦う初夏が来た。奄美大島に引っ越してきて1年が経とうとしている。島の暮らしにもだいぶ慣れてきて、今年から庭で小さな畑を作り始めた。強かった先代の猫にあやかって、「てつぞう農園」と呼んでいる。
 5m四方くらいの大きさを耕して、畝が7つできた。1月に人参、カリフラワー、空豆、チシャナ、ベビーリーフを植えた。プランターにはバジルとローズマリー。増えすぎると聞いたので、地植えせず。全然経験もないけれど、とりあえずやってみる。
 島は雨が頻繁に降ってくれるので、楽チン。人参は芽が出るまでは時間がかかったけど、大きくなりだすと強くて、ビュンビュン伸びる葉っぱを、日々おひたしやかき揚げにして食べたり、間引いた小さな人参をそのまま食べたり、すごく重宝している。ベビーリーフも種を適当に蒔けば、日々サラダとして食べられる。2月くらいまではどれも順調だった。
 しかし、暖かくなってきて、状況は変わった。島全体が芽吹いているのがわかる。生き物がざわめいている。気づけばあっという間にベビーリーフが虫に食べつくされ、空豆にアブラムシが大量につき、カリフラワーに蝶々が飛びまくって、生まれた幼虫がすごいスピードで葉を食べ、白いかわいらしい実の上にうんこをしまくっている。
 急遽、手作りの防虫剤を作る。唐辛子とニンニクと米酢を混ぜたもの。本来1か月寝かせてから使うらしいが、混ぜた先からどんどんスプレーしていった(意味あるのか)。なぜか、チシャナと人参だけが無害で、食べるのが追いつかないほどに成長していった。
 根気よく幼虫を枝でつまんで取り、防虫剤をスプレーしてアブラムシの大量殺戮を繰り返し、ベビーリーフはあまりにも小さい芽から食べられるので冬の間だけ植えることにした。焦るように収穫をして、なんとか食べることには成功した。が、カリフラワーと空豆がなくなったら、ターゲットは人参に。青虫たちは、見事に隣の畝にお引越しをしていた......。
 畑をやっていると、自然に近所の人が寄ってきて、いろんなアドバイスをしてくれる。ある日、パクチーを蒔いたポットの中に見覚えのない芽がニョキニョキ生えてきたので、隣の農家のおばあちゃんに聞いたら、ゴーヤだった。青パパイヤの木も3本勝手に生えてきた。花の咲き方でオスかメスかわかり、オスだったら実がならないらしい。青パパイヤの簡単お漬物の作り方も教えてもらった。
 畑の周りには大量のヨモギ。勢いがすごいし、食べきれないので、近所の人には勝手に採っていってもらっている。ヨモギ餅や乾燥させてお茶、お風呂にも入れるといいらしい。畑に藁やススキを敷いておくと雑草が生えにくいことも教えてもらう。裏のおばあちゃんはバナナの木をくれて、自分の敷地に生えてる芝生を持ってっていいと言ってくれる。芝生を敷くと泥はねがなくなるから。同じ町に住む友人からはキューリとトウモロコシの苗。近所の知り合いからは、立派なプルメリアの枝とミントの苗。
 こうやっていろんなものを共有したり、分け合ったり、勝手に種が飛んできたりしていると、家の境界線というのは一応はあるのだけど、全ては繋がっていて、どの庭とも兄弟のようだし、みんなでひとつの畑を耕している気がしてくる。
 ここ3日間は気合いを入れて雑草刈りをした。蚊に刺されまくって、お風呂あがりはボディクリームくらい全身にムヒを塗る。指は洗っても真っ黒、腰も痛い。
 けれど毎日午後3時頃、海の波の音が大きくなること、鳥たちが会話してること、暗くなるとカニが道路を横断すること、雑草の中からクロトンやクワズイモが生えてきてて、抜かずに残しておく楽しみ、学校帰りのこどもたちと挨拶、全てがなんだか愛おしい。畑づくりを通して、世界と繋がっている。



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