大潮の夜、潮が引いた浜でする漁をイザリという。岩場やリーフではたくさんの潮だまりができ、そこに残された魚やタコ、イカ、貝などを獲ったり、浅瀬から深くなるところで釣りをしたりする。1月〜3月が特に大きく潮が引くので、その季節に行われることが多い。大体夜中の12〜1時前後。奄美と言えど、冬の海は風も冷たく寒い。たくさん着込んで耳まである帽子をかぶるのはこの時くらいかもしれない。大潮とは満月と新月の時で、満月の晴れた夜は星が見えなくなるほど明るいので、新月のときが、お魚も眠っていて、より良いのだとか。また、引いていく時間帯より、満ちてくる時間帯のほうがそれによって流されてくる魚たちを狙えるらしいのだが、それはかなり海を知っていないと危険なので、いつも早めに家を出る。今回は地元のおっちゃんと一緒に友人と数人で行くことにした。昔は火を灯して行っていたらしい。今はさすがにヘッドライトをつけて、網やモリを持って、いざ海へ。
小さな潮だまりならザブザブ入りながら歩くため、長靴で行っていた時は一瞬で靴の中まで濡れていた。しかし、先日奄美を離れる友人に防水のツナギをもらったので最近は快適だ。それでも普段海の中にある岩を歩いていくのだから、足元はとても滑りやすい。暗いこともあって、手のひらや足の裏の感覚が敏感になる。体重を乗せていい場所か、つかんで良い岩か瞬時に判断しないといけない。暗闇の中、小さなことも見逃さないよう目がギラギラとしてくる。風が吹くと水面がゆらゆらと揺れるので、魚などが見つけにくくなる。目を凝らして、風が止むのをじっと待つ。
ふと底にブルーの得体の知れない物体がキラキラ光っているのが見えた。ウミウシだ。宝石のようにきれい。またその上の岩にはエメラルドグリーンに光る石に黄土色の脳みそのような文様。ピンクから赤むらさきのグラデーションの海藻が揺らめき、アオサのグリーンとのコントラストがなんとも言えない。オレンジの枝が密集しているサンゴ、赤いいくらのような玉がびっしりついた岩。真っ赤なウミウシもいる。
全体を眺めると岩や泡を立てる波の白やグレーの世界に、目を凝らすと数え切れないほどの色がある。光が少ない分、受け取る色の鮮やかさに心奪われる。違う惑星に来たような感動。
ふと、おっちゃんを見ると岩場についた貝を必死に獲っていた。すっかり獲物を獲ることは忘れて、観察に夢中になってしまっていた。
「ミロコちゃん!」
と呼ばれて行ってみると、友人が岩の隙間のほんの小さな潮だまりに取り残された魚を見つけていた。まだ経験の少ない私にモリを突かせてくれた。逃げ場のない魚なのにそれでも私は失敗して、隙間から逃げようとする魚を友人が仕留めてくれた。
こんな私でも何か獲れるものはないかと目を凝らしていると、岩の隙間から大きなスイジガイが見えた。漢字の水のような形をしているからスイジガイというらしい。大きくて予想以上に重い。裏返すと、ヌラヌラとくねらせた身が出たり入ったりする。やった!生きている!
「そろそろ戻ろうか」
と言われて、集落に向かう中、諦めきれず砂浜近くの浅瀬をザブザブ歩いていると、タコがスーンと泳ぐのが見えた。と思うと砂の上にペタッと張り付いた。泳いでいるときはわかるのに、砂の上にいるとまるでわからない。
「タコがいるよ!」
とおっちゃんを呼びつつ、失敗したくなくて、モリを突くのを躊躇していると、追いついてきたおっちゃんが間髪入れずに、ドスッ!と突いて瞬時に仕留めた。また私はチャンスを逃してしまった。
浜で網やクーラーボックスを覗くと、いつの間にかたくさんの小さな貝やトコブシ、魚も入っていて、十分な量に見えた。それでも、
「昔はもっともっといっぱい獲れたんだがね・・」
とおっちゃんは残念がっていた。
戻ると3時頃になっていて、眠気もあって疲れていたが、せっかくだからタコを茹でてみんなで食べた。何もつけなくてもみずみずしくプニプニしてて美味しかった。さっきまで泳いでいたタコ、ごめんなさい。お布団に入っても海で見ためくるめく色たちがまぶたの裏を駆け巡る。
小さな貝はお出汁を取ってお吸い物にしたり、トコブシはバター炒めにして楽しんだ。
スイジガイの食べた後の殻は火難除けのお守りとして、台所に飾ると良いらしい。今は外側に付いた藻や中の食べ残しを虫や微生物たちがきれいにお掃除してくれるまで、庭の土に埋めている。今年のイザリの季節もそろそろおしまい。いつか私もタコ穫れるかな。
小さな潮だまりならザブザブ入りながら歩くため、長靴で行っていた時は一瞬で靴の中まで濡れていた。しかし、先日奄美を離れる友人に防水のツナギをもらったので最近は快適だ。それでも普段海の中にある岩を歩いていくのだから、足元はとても滑りやすい。暗いこともあって、手のひらや足の裏の感覚が敏感になる。体重を乗せていい場所か、つかんで良い岩か瞬時に判断しないといけない。暗闇の中、小さなことも見逃さないよう目がギラギラとしてくる。風が吹くと水面がゆらゆらと揺れるので、魚などが見つけにくくなる。目を凝らして、風が止むのをじっと待つ。
ふと底にブルーの得体の知れない物体がキラキラ光っているのが見えた。ウミウシだ。宝石のようにきれい。またその上の岩にはエメラルドグリーンに光る石に黄土色の脳みそのような文様。ピンクから赤むらさきのグラデーションの海藻が揺らめき、アオサのグリーンとのコントラストがなんとも言えない。オレンジの枝が密集しているサンゴ、赤いいくらのような玉がびっしりついた岩。真っ赤なウミウシもいる。
全体を眺めると岩や泡を立てる波の白やグレーの世界に、目を凝らすと数え切れないほどの色がある。光が少ない分、受け取る色の鮮やかさに心奪われる。違う惑星に来たような感動。
ふと、おっちゃんを見ると岩場についた貝を必死に獲っていた。すっかり獲物を獲ることは忘れて、観察に夢中になってしまっていた。
「ミロコちゃん!」
と呼ばれて行ってみると、友人が岩の隙間のほんの小さな潮だまりに取り残された魚を見つけていた。まだ経験の少ない私にモリを突かせてくれた。逃げ場のない魚なのにそれでも私は失敗して、隙間から逃げようとする魚を友人が仕留めてくれた。
こんな私でも何か獲れるものはないかと目を凝らしていると、岩の隙間から大きなスイジガイが見えた。漢字の水のような形をしているからスイジガイというらしい。大きくて予想以上に重い。裏返すと、ヌラヌラとくねらせた身が出たり入ったりする。やった!生きている!
「そろそろ戻ろうか」
と言われて、集落に向かう中、諦めきれず砂浜近くの浅瀬をザブザブ歩いていると、タコがスーンと泳ぐのが見えた。と思うと砂の上にペタッと張り付いた。泳いでいるときはわかるのに、砂の上にいるとまるでわからない。
「タコがいるよ!」
とおっちゃんを呼びつつ、失敗したくなくて、モリを突くのを躊躇していると、追いついてきたおっちゃんが間髪入れずに、ドスッ!と突いて瞬時に仕留めた。また私はチャンスを逃してしまった。
浜で網やクーラーボックスを覗くと、いつの間にかたくさんの小さな貝やトコブシ、魚も入っていて、十分な量に見えた。それでも、
「昔はもっともっといっぱい獲れたんだがね・・」
とおっちゃんは残念がっていた。
戻ると3時頃になっていて、眠気もあって疲れていたが、せっかくだからタコを茹でてみんなで食べた。何もつけなくてもみずみずしくプニプニしてて美味しかった。さっきまで泳いでいたタコ、ごめんなさい。お布団に入っても海で見ためくるめく色たちがまぶたの裏を駆け巡る。
小さな貝はお出汁を取ってお吸い物にしたり、トコブシはバター炒めにして楽しんだ。
スイジガイの食べた後の殻は火難除けのお守りとして、台所に飾ると良いらしい。今は外側に付いた藻や中の食べ残しを虫や微生物たちがきれいにお掃除してくれるまで、庭の土に埋めている。今年のイザリの季節もそろそろおしまい。いつか私もタコ穫れるかな。
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- 第41回 舟こぎ競争
- 第40回 ふえる植物
- 第39回 八月踊り
- 第38回 月夜のハブ
- 第37回 妖怪オゴラン
- 第36回 田舎町の死者の日
- 第35回 メキシコでの展覧会
- 第34回 深夜の津波警報
- 第33回 イザリ
- 第32回 島の再会と別れ
- 第31回 カフェバーができた
- 第30回 隣の達人
- 第29回 物心交換
- 第28回 タケノコくん
- 第27回 お正月の悲劇
- 第26回 ガラスの学校
- 第25回 巨大な台風
- 第24回 てつぞう農園
- 第23回 6匹目の猫
- 第22回 猫たちの変化
- 第21回 サトウキビのおもいで
- 第20回 お弁当作り
- 第19回 種下ろし
- 第18回 カマキリおじいちゃん
- 第17回 ハブと居酒屋
- 第16回 釣り、始めました。
- 第15回 アリ地獄
- 第14回 猫達の引越し2
- 第13回 猫達の引越し
- 第12回 夜中の逃亡
- 第11回 インドのファミリーデイ
- 第10回 運動センス
- 第9回 ホクロの迷信
- 第8回 南の島でのもらいもの
- 第7回 ボウちゃんの呪い
- 第6回 はじめてのプロレス観戦
- 第5回 おばけ
- 第4回 Sさんの計らい
- 第3回 保育園のお散歩隊
- 第2回 3月23日
- 第1回 猫の性格