• ミロコマチコ「ミロコあたり」

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 とにかく「体を動かすこと」と「勝負」が好きな島人たち。舟こぎ競争をはじめ、島人たちは色々なスポーツを楽しんでいる。
 シニア世代は「グランドゴルフ」。聞いた話によると、「ゲートボール」が主流だった時代は、対戦相手のボールに自分のボールを当てて、ゲートを通らせないよう邪魔をし合うゲームなので、雰囲気も悪くなりがちで、喧嘩が絶えなかったらしい。今はグランドゴルフに移行して、自分たちのプレイに集中して平和に楽しんでいるようだ。あるとき、グランドゴルフ場を覗いてみたら、島じゅうのお年寄りが集まっているのではないかと思うほどの人数で、驚いた。
 夏の怒涛の舟こぎ競争大会の日々が終わると、「運動会」に向けての練習が激しくなってくる。小中学校の運動会に、大人たちが真剣勝負するプログラムが組み込まれているからだ。大人たちは、各々リレーなどの練習をしつつ、団体競技や特別な道具を必要とするものは、公民館や港に集合して、真面目に夜な夜な練習をする。
 大人の男女混合では、自転車の車輪を棒で押して回しながら走る「輪回し競争」。高齢者が参加するフラフープを離れた棒に投げ入れる「輪入れ」。「グランドゴルフ」、「綱引き」など。
 男性種目は、米俵を担いで走る「俵運搬リレー」、高齢者より難易度があがる「輪入れ」。
 女性種目は、湯呑みに汲んだ水を一升瓶に注ぐ「水入れ競争」。
 やってみるとどれも奥が深く、夢中になるのがわかる。
 これらを、まずは自分の地域の小中学校での運動会で、校区内の集落対抗で競う。うちの校区は3集落が集まっている。子どもたちの合間に、少しだけ大人も競技に参加するのではなく、しっかりと大人の競技も組み込まれているのだ。
 そしてこの日の活躍が、その後の約20集落が参加する町の体育大会の選手になれるかどうかの予選の役割を担っている。大先輩のおじ(おじいさん)やおば(おばあさん)も応援に駆けつける。しっかりと最前列に座り、応援用のチヂン(島の太鼓)を持って、優しい目をして見守っているが、鋭くチェックもしている。
 その夜の反省会でのこと。男性の「輪入れ」は10人がそれぞれに輪を5本ずつ持ち、棒に入った合計の数で勝敗が決まるのだが、旦那のまさしくんは1本も入れることができなかった。
「あんたの旦那は0本だったね、もっと練習しまい(方言で、しなければならないという意味)
と言われ、驚いた。しっかりと覚えているのだ。
 そして、運動会中に撮影した動画を流しながら酒を飲み、みんなであれやこれやと話し合い、本当に反省するのだから面白い。
 とにかく運動音痴の私は、「水入れ競争」だけに参加している。女性10名が縦1列に並ぶ。先頭の女性が湯呑みを持って、水が入ったバケツまで走り、水を汲んで、その先に置かれた一升瓶まで走り、水を入れる。走って戻ってきたら、先頭の女性に湯呑みを渡してバトンタッチし、これを繰り返し、一升瓶が満杯になるスピードを競う。ひとつひとつの工程を丁寧に吟味していくと、かなり速くなる。バケツから水を汲むときは湯呑みを斜めにせずに、腕ごとまっすぐドボンと入れ、まっすぐ引き出す。そうすることで素早くいっぱい入れることができる。一升瓶に入れるときは、急ぐと瓶の口に水が弾かれてしまうので、絶妙な細さで水を落とし、最後は思い切ってぐいっと流し入れる。戻ってきたら、列の一番後ろを通って、一番前の人に渡すというルールで、列の一番後ろの人は、走ってきた女性の腕を持ち、遠心力で大回りにならないように、ぐるりと引っ張りながらサポートする。
 基本的に、全て全力疾走。10人の順番を決めるのも重要。速く走れる人が早めの順番になった方がよい。私はもちろん苦手なので、9番目か10番目を希望したが、8番目を走ることになり、プレッシャーだった。だが18杯目でいっぱいになったので、一升瓶から水が溢れる一番興奮する瞬間を味わうことができた。それぞれの瓶の前に審判がいて、いっぱいになると旗を上げてくれる。それを間近に確認して、振り返り、みんなにガッツポーズ。僅差で1位は逃したが、2位に輝いた。テントに戻ると、しっかり確認している大先輩のおばにも褒められた。
 まさしくんも少し進歩して、「輪入れ」で2本入れることができ、集落としては総合優勝を果たした。優勝旗を誇らしげに公民館に飾って、夜はもちろん祝賀会が開かれた。それぞれの種目に出場した選手全員から感想や反省点、来年への目標を発表していく。お酒も入り、よかった点を褒め合うのはもちろん、「俵運搬リレー」で、1位を走っていたのに、最後のカーブで俵ごとコース外へ吹っ飛んで脱落した選手は、何度も何度も話題にのぼり、大笑いで夜は更けていった。きっと何年先も言われつづけるのだろう。
 今回の町の広報誌の表紙は「綱引き」の写真だった。大人が全員本気でキバっている。これらが秋のお祭「種下ろし」の合間に開催されるのだから、恐るべし島人たちである。



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